【GRIS】示唆に富んだ芸術性あふれるADV(考察)

価格:¥1,730
言語:公式日本語対応
プラットフォーム:PC、Swich

ざっくばらんに説明すると・・・

  • 自分自身の世界に迷い込んだ女の子のアドベンチャー
  • テキストがほとんどない解釈自由なストーリー
  • 色彩で表現される豊かなビジュアル

【どんなゲーム?】

恐怖や驚きによって顔色が青ざめることを「色を失う」と言いますが、この作品は世界の崩壊とともに色を失うシーンから始まりました。

プレイ時間は3時間ほどでアクション、パズルともにやさしめ。2Dアクションだが落下死もなく、おそらくゲームオーバーにならない設計と思われるので、誰もが最後まで楽しめる作品だと思います。

世界観は、人生での辛い体験によって、自分自身の世界に迷い込んでしまった女の子「グリス」の物語です。テキストはほとんどなく芸術性あふれるビジュアルで、世界に色を取り戻す瞬間は言葉にならない感動がありました。

【どんな人におすすめ?】

開発元のNomada Studioはストーリーについても「プレイヤーによって自由に解釈できるようになっている」と言っているのでプレイヤーの数だけ感想があることでしょう。ストーリーのキーとなる描写から連想して「筆者の気持ちを考える」のが楽しいゲームです。

ちなみに連想とは「具体的連想」と「抽象的連想」の2種類に分けることができます。例えば『赤』を見たとき「リンゴ」や「血」などを想起するのが具体的連想、「情熱」や「怒り」を想起するのが抽象的連想を指します。

前者が具体的な色の知覚や記憶との関連が深いのに対して、後者は心理的、情緒的な関連が深い。人の数だけ違う感想が生まれる理由はここにあるのではないでしょうか。

本作は色や形から感情を想像し、女の子のストーリーを組み立てるのが醍醐味とも言えるでしょう。考察が好きなゲーマーにこそおすすめです。

【ゲームを終えて、考えたこと】

この記事では自分のプレイを振り返り、そして物語のキーとなる部分を考察してまとめてみようと思います。なのでネタバレについては自己責任で。(あくまで考察であって答え合わせではないのでネタバレでもないと思いますが)。

もちろん人それぞれ違う感覚を持っているので正解というものはありません。プレイする際にはどうか自分の感覚を大事にしてほしいですね。

プレイの振り返りは少し長いと思うので、面倒な人は最後のほうのまとめまで飛ばしてもらっても大丈夫です。最終的にどんな物語だったと考えたのかが伝われば幸いです。

主人公はタイトルにもある『Gris(グリス)』と呼ばれる少女。物語の始まりは彼女が石像の手のひらで美しい歌を歌うシーンから始まります。しかし、やがて声が出なくなると足元が崩壊して奥深くに落ちていきます。

奈落の底に落ちたグリスは色のない砂漠のような世界で目を覚まします。しばらく彷徨うと、ほとんど原型 を失った石像の手の平の上で「」を手に入れます。ここから徐々に世界の色づきが始まっていきます。

そしてエリアを抜けると次は「」を手に入れます。そのときも原型のない石像の手の上でした。その後現れるツタを滑り降りると、徐々に植物が登場するようになり、動物の鳴き声が響き渡るなど命の豊かさを描写する場面が増えてきます。この後、「黒い鳥」と対峙することにもなります。

なんとか黒い鳥から逃げ切るとまた石像が姿を現します。しかしここで登場する石像は、頭部は欠けているが明らかに女性と分かるほどには原型をとどめていました。」を手に入れるとやがて雨が降り始め、ここからは水や海が多く登場します。

海の深くまで潜ると、夜空のような景色に出会います。ここには体全体を保ったままの女性の石像がグリスを待っていました。そして手のひらに乗ったグリスを見つめると燦然と煌めく満月のような景色が現れ、「」を手に入れます。しかしすぐに石像が崩れ落ち、黒い鳥がウナギのような姿に変わり暗い海でグリスに襲いかかります。

とある動物の助けによって逃げ切った先は色彩豊かな美しい景色が続いていました。様々な色の動植物は生命の豊かさそのものを描いているように感じました。ここでグリスは「声」を手に入れます。

「声」は花を咲かせるなど仕掛けを起動するアクションとなります。言い換えれば、グリスは初めて自らの行動で世界に変化をもたらせるようになったと言えるのではないでしょうか。

そして最後は世界と変えるほどの大きな声によって石像を修復し物語はエンディングを迎えます。世界とはもちろんグリス本人のことです。

さて、物語を振り返ってみると声の喪失、石像の崩壊から始まり、そして声の獲得、石像の修復によって結末を迎えます。ざっくり言ってしまえば「自分を見失ったけど、自分と向き合い、元の自分を取り戻した話」という感じでしょうか。

ここからは物語にも深く関わる3つのキー「石像」「黒い鳥」「色(赤・緑・青・黄)」を考察します。

まず「石像」について。本作に登場する石像の特徴はすべて髪の長い女性であること、そしてたいてい顔を手で覆っていたり俯いたりしていて悲哀の感情が見て取れます。おそらくはどれもひとりの人物を型取っているのでしょう。

最終的に、崩れ落ちた石像が修復されるのは見失った自分を取り戻した描写にほかならりません。重要な場面では内なるグリスと共にあるこの女性像はグリスの外側(現実)の姿を表していると思います。

次に「黒い鳥」について。物語の始まりは声の喪失とともに石像(自分)が崩壊しました。そこで声=アイデンティティと捉えてみます。

黒い鳥は主人公の行く手を阻む存在として現れます。鳥は「鳥の歌声」と言われるように声の象徴でもあるし、猛々しい猛禽類ではなく丸みを帯びた小鳥のような輪郭も女性的ですね。

つまり、黒い鳥はアイデンティティの具現化であり「人生の辛い経験」と深く関わっているのでは。そしてそれが登場するシーンは自分との戦いでもある、というのが黒い鳥に対する見解です。黒い鳥は場面によって姿形を変えグリスに「人生の辛い経験」を乗り越えるための試練を与えるのでしょう。

そして最後に「色」について。これはハッキリと説明するのがなかなか難しい。色は物語の進行で赤・緑・青・黄の順で手に入れます。光の3原色などではなく、なぜこの4色なのかを考えなければならないでしょう。

ドイツの生理学者エヴァルト・ヘリングによると、赤⇔緑、青⇔黄をそれぞれ反対色としている表色系ではそれらを『心理4原色』と呼ぶらしく、それをヒントに考えていくことにします。(参考: 色のしくみ 著:城一夫 新星出版社 )

これを前提とすると、赤(青)の意味を考察すれば緑(黄)は反対の意味だと予想ができますね。

まず赤から連想して「血」や「怒り」だと考えれば、緑は「生命」や「豊かさ」といった平和的な言葉が連想できます。緑のエリアでは謎の生命体と一緒に行動するシーンが登場しますが、自分以外の何かと一緒に行動することでグリスの中に「自分とは何か」という思いが巡ったのではないでしょうか。黒い鳥、すなわち自分のアイデンティティが立ちはだかるのは謎の生命体と別れた後のことでした。

黒い鳥から逃げ切り、青を手に入れると雨が降り始めます。恐怖に涙している描写と考えれば、青は「悲しみ」や「抑鬱」でしょうか。あるいは緑エリアで芽生えた植物に水を与えていると考えれば、成長を描いていると解釈することもできます。「悲しみ」の反対語と言えば普通「喜び」ですが、ここでは黄はあえて「希望」と捉えたいですね。グリスは「人生の辛い経験」を乗り越える希望を見つけ世界に大きな声で変化をもたらしました。

さて、長くなってしまいましたが考察をまとめてみます。

『グリスはアイデンティティの崩壊によって自己を見失い、自分自身の世界に迷い込みます。そこで生まれた内なるグリスは現実世界のグリスとは異なり、本来は石像と同じ外見をしています。最初は何の感情も持てずにいたが、怒りによって歩みを始めます。やがて、他人との触れ合いによって落ち着きを取り戻しますが、同時に自身を振り返ることでアイデンティティであり人生の辛い経験が現れます。暗い過去を振り切り、感情のうねりの中で希望を見つけ出し、それが大きな希望へと育まれ、元の自分を見つけ出しました。』

そしてグリスは内なる世界を抜け出し、現実世界できっと前へと進めることでしょう…というのがプレイを終えて自分なりに感じたストーリーです。めでたし、めでたし。

人の心は多面体であり一つの感情だけで生きている人間はいません。このゲームの背景のほとんどがビビッドカラーでなくパステルカラーで塗られているのは感情や感覚の境界線の曖昧さを描いているのかもしれません。

自分と向き合うことで様々な自分に出会う、それは複雑に絡み合った繊細な感情を紐解く作業でもあります。この作品は、最後までグリスというたったひとりの女の子の物語でした。

muramasa

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